東京地方裁判所 昭和40年(ワ)906号 判決 1968年4月22日
原告 山田末造
右訴訟代理人弁護士 柴山博
被告 共同施設株式会社
右訴訟代理人弁護士 小関淑子
同 満尾叶
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
<全部省略>
理由
一、原告の債務者教会に対する債権
(1) 訴外宗教法人日本福音教団聖都教会(以下単に教会という)が、昭和三六年秋頃、別表物件目録記載の(一)、(二)の土地上にある教会堂を取り毀してビルディング(聖都ビルと称する)を建てることを計画し、同年一〇月二七日、訴外中村壮太郎からその所有にかかる右目録(二)の土地を代金金四、一七七万五、〇〇〇円で買い受け、同日中村に内金金一、〇〇〇万円を支払ったこと、教会が右残代金を支払期限の昭和三七年三月末日までに支払えなくなったため、教団の筆頭責任役員である原告にその支払いを依頼したこと、そこで原告が右目録(二)の土地の売買残代金として、昭和三七年四月一日金一、〇〇〇円、同月二五日金二、三九二万五、〇〇〇円を中村に対し支払ったことは当事者間に争いがない。
<証拠省略>によると、教会の代表者星野栄一は、同月二〇日になって、右目録(二)の土地の買入れ資金の大部分を原告が支払うことになった関係上、中村から買った右土地については原告名義で所有権取得登記手続をしてもよいこと、ならびに原告が右土地を売却等処分してよいことを承認する旨の記載してある念書を原告に差し入れたこと、そして中村との右土地売買の完了する最終残代金の支払いの段階では、原告が事実上右土地の買主のように残代金を直接中村に支払い中村から右土地の権利証等を受領し、爾後原告が右土地を聖都ビル建設計画に提供出資するつもりで所有していたことが認められ、右認定に反する証人星野栄一の証言および原告本人尋問の結果は措信できない。
右認定事実ならびに後述のように原告が後に右目録(二)の土地を自分の所有物として被告に売渡した事実によれば、原告は教会と中村との右目録(二)の土地の売買契約上の買主たる地位を、昭和三七年四月二〇日教会より承継したものと認められる。
従って、原告が昭和三七年四月二五日中村に支払った金二、三九二万五、〇〇〇円は原告自身の残代金債務の履行としてなされたもので、教会の委任に基づく立替え払いではない。しかしながら、それより先の同年四月一日に原告が中村に対し支払った金一、〇〇〇万円は、前認定によれば、原告が教会の委任により教会の債務を立替えて支払ったものであるから、これにより原告は教会に対し金一、〇〇〇万円の費用償還請求権を取得したわけである。したがって教会と原告との間でその後に右売買契約上の地位の承継を合意しても、右債権が当然に消滅する理由はないし、その他右債権の消滅について何ら主張立証がないから、原告は教会に対し右金一、〇〇〇万円の債権を有する。
(2) 教会が前述のように中村から目録(二)の土地を買い受ける契約を締結した際代金の内金一、〇〇〇万円を支払ったが右支払金の半金が他の高利貸から借り入れてきたものであったため、教会は昭和三七年五月一七日逆に中村より金五〇〇万円を弁済期同年七月一六日、利息月三分の約定で借りて返済に充てたことは、当事者間に争いない。
原告が前述のように教会より目録(二)の土地の買主たる地位を承継したことにより、原告が教会の中村に対する右金五〇〇万円の債務を当然に引受けたことにはならないから被告のこの点に関する抗弁は失当である。
教会が中村に対する右金五〇〇万円の借用金の返済ができず、原告が昭和三八年七月一八日右借用金の返済として中村に元利合計金七二五万円を支払ったことは当事者間に争いがない。
したがって原告は教会に対し、事務管理による費用として金七二五万円の求償債権を有する。
(3) 原告が目録(一)、(二)の地上にあった教会堂に居住していた訴外福本和夫、同鳴門彌夫に対し立退料として、昭和三八年八月一七日鳴門に金九〇万円、同年九月下旬頃福本に金三〇〇万円をそれぞれ支払ったことは当事者間に争いがない。
原告は右立退料の支払いは教会の依頼があったので教会のために立替え払いしたものであると主張するが、右主張事実を認めるに足る証拠はない。 <証拠省略>によると原告は昭和三八年七月一八日被告に対し、目録(二)の土地を金四、〇〇〇万円にて売渡し、その際右土地上にある教会堂の占有者を同年八月末日までに立退かせて収去の上更地として引渡すことを約束したこと、そのため原告の代理人柴山博弁護士や桜井直一らが居住者と交渉して立退料を支払って立退かせたことが認められる。従って原告が福本や鳴門に立退料を支払ったのは自己の債務の履行のためになしたものであって、教会の依頼に基づく立替え払いでないといわねばならない。
結局、原告の教会に対する立退料立替え払いによる求償債権は認めることができない。
(4) 原告は教会に対し教会維持費や雑費支払いのための資金として昭和三六年一二月一日金一〇〇万円、昭和三八年七月一八日金五〇万円、同年一一月二〇日金二〇万円を貸付けたと主張する。
弁論の全趣旨により真正な成立を認める甲第一号証の二によれば、昭和三八年一一月二〇日原告代理人柴山博から星野栄一に金二〇万円が交付されたことが認められるが、同号証によっては同人が原告にこれを返還する合意をしたことを認めるに足りないし、同じく真正な成立を認める同号証の三によれば、昭和三八年七月一八日原告から株式会社アジア福音センターの星野栄一が金五〇万円を借用したことが認められるが、同号証によっても教会が右金員を借用したものと認めるに足らない。他に右主張事実を認定するに足りる証拠はない。
(5) 以上によれば原告は教会に対し前記(1)の金一、〇〇〇万円および(2)の金七二五万円の求償債権を有することが明らかである。
二、債務者教会の詐害行為の有無
教会が昭和三九年七月六日被告に対し目録(一)の土地を売渡し東京法務局前同日受付第一〇二八号の所有権移転登記手続を了したこと、教会がこれより先昭和三九年五月七日訴外叶不動産株式会社に対し被告抗弁(5)の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)に述べるような約定で債務の担保のために右土地を譲渡し、同月九日所有権移転登記を経ていたことは当事者間に争いがない。
<証拠省略>によると、教会は右のように目録(一)の土地を譲渡担保に入れて叶不動産から借金をしたものの、右借金の返済に充てるような手持金はなく担保流れで右目録(一)の土地の所有権を確定的に失ってしまう状態であり、最終弁済期限の昭和三九年九月六日までに元利合計金一、五〇〇万円を返済するには目録(一)の土地を売却しなければ資金のあてのない事態であったこと、そこで教会は右土地の担保流れの回避のため、また何らかの形で聖都ビルディング建設計画を遂行するためにも、右土地を被告に金五、三〇〇万円で売渡すことを契約し、その際右代金のうちの前受金でもって叶不動産に対する借金の返済をなして譲渡担保による所有権移転登記を抹消してもらうことを約定したこと、被告会社の礒崎清は右のような売買契約を前提に、昭和三九年七月六日、東京法務局において、教会代表者星野栄一の立会いのもとに売買代金の一部金一、三五六万円を叶不動産の代表者に支払い、もって教会の叶不動産に対する前記借金の返済をなし、叶不動産から譲渡担保に因る所有権移転登記の抹消登記手続に必要な権利証その他の書類を受領したこと、そして被告会社は教会に対し残代金三、九四四万円を支払い自分に所有移転登記を了したこと、教会代表者星野栄一は後日右金三、九四四万円でもって、聖都ビル建設用地として、豊島区池袋一丁目一、〇九二番の一に宅地一二五坪二合八勺を買い入れ、星野栄一個人名義でその所有権取得登記を了したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
右認定事実によれば、教会と被告間の目録(一)の土地の売買契約は、教会がその代金の一部をもって叶不動産に対する借用金債務を弁済して、もともと譲渡担保の目的物であって教会の処分できない土地の所有権を取り戻すことと聖都ビルディング建設用地を他所に買い求める資金をつくる目的で行なわれたことが認められる。
債務者が特定債権者の債権を担保するために譲渡して移転登記を経ている不動産は、そもそもその限りにおいては、一般債権者の債権の満足に供し得ないものであるから、債務者がこれを第三者に売却しても、そのことだけでは、一般債権者の引き当てとなっている一般資産を減少させたことにはならない。また教会は売買代金の一部をもって譲渡担保権者への債務を弁済し、土地を取り戻して、その所有権を被告に移転したのであるから、本件土地に関する限りにおいては、売買の前後において教会の資産に増減なくその実質的担保力を減少させたものとはいえない。また前認定の売却の目的から見れば、教会が右売買契約をするについて一般債権者の債権を害する意思を有していたものとは認め難い。
以上によれば、教会と被告との間の目録(一)の土地の売買契約が詐害行為でないことは明らかである。<以下省略>
(裁判長裁判官 岩村弘雄 裁判官 舟本信光 鬼頭季郎)